暗闇からの招待状 その「呪物」は隣の部屋で呼吸している

世の中には、手にしてはならないものが存在する。

​骨董品店の一角、あるいは打ち捨てられた廃屋の奥底。数十年、時には数百年の時を経て、持ち主の怨念や土地の因縁を吸い込み、異質のエネルギーを纏うに至った造形物——。

人々はそれを呪物じゅぶつと呼ぶ。

​大抵の人間は、その禍々しさを本能で察知し、目を逸らす。

しかし、ごく稀に、その深淵に魅せられ、自ら進んで蒐集する呪物コレクターと呼ばれる者たちが存在するのだ。

隣室の「静かなる」隣人

​あるコレクターが語った話だ。

彼はその日、念願だったいわく付きの木像を手に入れ、自宅の空き部屋に安置した。

​その夜から、異変は始まった。

​深夜、寝静まった寝室に響く、乾いた音。

「コン、コン……」

壁を叩くような、あるいは床を蹴るような、鋭いラップ音。

音の発生源は明らかに、あの木像を置いた隣の部屋からだった。

​当初は家鳴りかとも思った。

しかし、その音にはどこか規則性があり、まるで何かがこちら側の反応を伺っているかのような、奇妙な意志を感じさせたという。

扉一枚を隔てた向こう側で、確かに何かが起きている。

​視線を感じて扉を開けても、そこには月明かりに照らされた無機質な木像が佇んでいるだけだ。

だが、部屋の空気は明らかに重く、肌を刺すような湿り気を帯びている。

​それは序章に過ぎなかった。

​侵食される日常:連鎖する不運

​呪物の影響は、物理的な音だけでは収まらない。それは持ち主の運命そのものを、じわじわと、かつ確実に侵食していく。

  1. 背後に迫る鉄の塊 ある日の仕事帰り、彼は何の変哲もない横断歩道で足を止めた。信号は青。しかし視界の端から猛スピードの車が突っ込んできた。あと一歩踏み出していれば今頃はこの世にいなかっただろう。運転手と目が合った瞬間、相手の顔はまるで見えない力に操られているかのように無表情で虚ろだったという。
  2. 血脈を辿る災い 呪いの矛先は、所有者本人だけに留まらない。突如として届く身内の訃報。不慮の事故、急激な病状の悪化。まるで家系図の枝葉を一つずつ折っていくかのように不幸の連鎖が止まらなくなる。

​呪物を所有するということは、負の負債を肩代わりすることに他ならない。

溜まった淀みが溢れ出したとき、最初に犠牲になるのは、持ち主にとって最も大切な繋がりなのだ。

なぜ、彼らは手放さないのか

​これほどの恐怖にさらされながら、なぜコレクターたちは呪物を手放さないのか。

​それは、一度その闇の芳醇ほうじゅんさを知ってしまうと、平穏な日常が色褪せて見えるからかもしれない。

死に直結するスリル、この世ならざるものと繋がっているという全能感。

​あるいは、すでにその意思は彼ら自身のものではなく、呪物によって選ばされ、生かされている状態にあるのではないか。

​あなたの隣の部屋。もし、深夜に小さな音が聞こえたら、決して確認しに行ってはいけない。

それは、あなたが招き入れた何かが、次の供物を探している合図なのだから。

​筆者のひとりごと

​呪物という言葉を聞くと、どこか遠い世界の物語のように感じますが、実は私たちの身近なオークションサイトやフリマアプリでも、正体不明のいわく付きが日々取引されています。

​個人的には、そういうものには絶対に触れないと決めています。

たとえそれがどれほど高価で美しい美術品だったとしても、目に見えない執着まで買い取る勇気は私にはありません。

​もし皆さんが、旅先や古道具屋でなぜか目が離せないものに出会ったら、それは運命ではなく、警告かもしれませんよ。

手に入れる前に、一度その背後の冷たい空気を感じ取ってみてください。

​それでは、今夜もあなたの枕元が静かであることを願って。

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